ラットマン (光文社文庫)

 やはり道尾秀介はうまい。ミステリー小説では、深読みをせずに、ミスリードにもそのまま乗っかっていってしまう私は、この本でもまんまとおかしなところへ流されてしまいました。
 登場人物は、主人公であるアマチュアバンドのギタリスト姫川と、そのバンドメンバー、そして、彼らを取り巻く人々です。姫川には、幼少時代に亡くなった姉がいて、その死が彼の心に大きな傷を作っています。彼らの練習するスタジオで、一つの殺人事件が起こったことがきっかけで、姫川の心の傷、姉の死の真相も明らかになっていきます。
 事件の真相を追うバンドメンバーと事件の真相をひた隠しにする姫川。
 過去と現在の事件が投影され、筋書きが過去・現在でリンクして二転三転していく様は、さすがは道尾秀介です。どうも過去に比べ、現在の事件のほうが動機に関しても、道具立てに関しても弱いのは、愛嬌というところでしょうか。
 カバーにある大沢在昌の称賛に、一瞬怯んでしまいましたが、やはり、道尾秀介は道尾秀介。計算高く、網目の張られた話を作っています。ハードボイルドではありませんでしたので、ご安心を。