生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

 遅ればせながらの本ばかりで恐縮です。
 数年前に非常に話題になった新書です。「新書大賞 サントリー学芸賞 ダブル受賞!!」という、かろうじて本のタイトル、著者名が読めるほどの大きな帯には、著名人の推薦文がずらずらと並んでおり、いやがおうにも期待が高まります。

 結論から言わせてもらいますと、分子生物学の分野に進んだ元文学青年の書いた本、といった感じですね。推薦文に作家の名前が並んでいるのも肯けます。
 私は、もっと学術寄りの内容を想像して読んでいたため、期待はずれの感が強いです。
 その原因は何か。
 第一に、多くの学芸書と違い、主語は「私」です。「私」の思い出話から始まり、思い出話で終わります。タイトルを「生物と無生物と私のあいだ」としたほうが、内容にしっくりくるのではないでしょうか。さらに言うならば、優先順位を本の内容と適合させて「私と生物と無生物のあいだ」とするのがよいでしょう。
 第二に、詩的な感性と評され、作家たちを魅了させたという表現が、いまいち私の心には突き刺さりませんでした。例えば、タンパク質同士の結合はがっしりとしたものではなく、振動しているということについての表現。「(タンパク質は)かすかな口づけを繰り返す」。……ええと、私はここで完全に引いてしまいました。この表現が好きという人は、感性が合うと思われますので、本書も面白く読めることでしょう。

 内容としては、自己複製(これが生物であるための大前提)に関しての研究をめぐる、科学者たちのドラマといったところでしょうか。さほど、深い内容が書かれているわけではありませんが、総覧するという目的には使用可かもしれません。