東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン (新潮文庫)

 ああ、悔しい。泣かされてしまいました。
 母親ネタは苦手なんです。母の愛は偉大ですね。

 ボクが生まれてから、オカンが亡くなってしまうまでの記憶をつづった物語です。
 ボクが四歳の時に、オカンは酒乱で遊び人のオトンと別居。それ以来、オカンは自分の人生を全てボクに捧げてくれたのです。心が安らげるような家もなく、居候の肩身の狭い思いをしながら、ボクに不自由を感じさせることなく、必死に働いたオカン。
 自分の年金の支払いさえも、ボクの学費に充てて。
 東京に出て、仕事が軌道に乗り出したボクは、オカンを九州から呼びよせて、一緒に暮らすことにします。しかし、オカンの発病、そして闘病――

 初めてこの人の文章を読みましたが、巧みです。無駄なことは書かずに、基本的に自分の感情と記憶だけを書いていく。今から泣かせますよ感がないので、純粋に共感していくことができます。
 章のあたまに書かれている、詩のような、なんだかよくわからない文章だけはちょっと寒いのでやめてほしいですが……

 ボクのまわりにいる人物が、オカンとオトンも含めて、みんな魅力的。泣きつつも、読んでいて、微笑んでしまうような。コミカルさと悲しみのバランスがちょうどよく、エンターテイメントとしても十分な水準です。

 日ごろ忘れがちな親孝行の大切さを思い出させてくれる一冊です。