利休にたずねよ (PHP文芸文庫)

 千利休という人物は、かくも魅力に満ちた存在なんですねえ。茶の湯のわびさびの美学を追求した、安土桃山時代の人物です。秀吉に重用されながら、最後は怒りを買って腹を切って果てしまうのです。
 それもこれも、利休が己の美学をかたくななまでに曲げないがため。
 頑固と言えば頑固、一途と言えば一途な利休の根底に流れているものは何か、それをテーマにしたのが本書です。

 ストーリーは、時代をさかのぼる形で作られていきます。利休の切腹のシーンから始まり、次第次第に過去の、少年時代の利休へと。それが、利休一人だけでなく、様々な利休に関わった人物の口から語られていくのです。
 もちろん秀吉も信長も登場しますが、それはあくまでも脇役。数多の名将も、大事件も全てが利休のための添え物になってしまっています。

 さすがに巧いです。
 私はこのような、練られた小説に弱いのです。

 結局利休は、日々美しく更新されていく思い出に近づこうと、必死に美を追い求めていたのでしょう。武士道だけでなく、茶道もまた修羅の道といったところでしょうか。
 いやあ、面白いです。