新編・風雪のビヴァーク (ヤマケイ文庫)

 山をやる人必読、と私が言うまでもないでしょう。
 冬の北鎌尾根で記録的な激しい吹雪に見舞われ、他界したクライマー松濤明の足跡をたどった一冊です。

 1922年に生まれた松濤明は、中学生の時から本格的に登山をはじめ、中学卒業と同時に東京登徒渓流会に入会、それからはひたすら山に傾倒していくのです。そして、28才の冬、有元克己とともに行った北鎌尾根で激しい吹雪の中、遺書を残しました。凍傷に冒され、死を眼前にしてなお、落ち着いて(少なくとも文字は)死と向き合っていたのです。

 死へといたる道のりが本書のメインであるのは言うまでもありませんが、それ以外の記録、とりわけ、山に対しての松濤の意見というのが、私にとっては興味深く、考えさせられるものでした。
 遭難者を出したことに対して、登山の自粛をするという会の決定に、それは違うのではないかと真っ向から疑問を呈し、あるいは、「初」を尊ぶばかりに、本来の登山の目的であるピークハンティングを忘れているかのような潮流にもの申す。ときに鋭くなるその舌鋒には、松濤の熱意と自負がはっきりと込められています。

 良さも怖さも全てをひっくるめて、山と向き合っていた松濤。彼だからこその記録・遺書なのだな、というのを感じました。
 昨今の山ブーム、自戒の意味も込めて、じっくりと読んでおかねばと思います。