これはいい伊坂幸太郎。「あるキング」。キャラクターとして王求が愛せる。


king

あるキング (徳間文庫)

伊坂幸太郎の中でも色々と好みが分かれると思うんです。
ネットの感想を眺めていたら「この初期伊坂が好きだ」と言ってる方がいましたが、すごくわかる。
初期かどうかはわからないのだけど。

文庫版のあとがきでは伊坂幸太郎が「いつもの僕の小説とも雰囲気の異なるものになりました」と触れています。
※単行本が出た際にそう触れたそうです。

確かに物語全体で現実感のない空気が出ており、舞台を見ているような気持ちになります。
ただ、伊坂幸太郎の描く一種の爽快感が所々にあって読んでいて気持ちがいいです。

 

あらすじ

Amazonに掲載されていたあらすじは以下の通り。

天才が同時代、同空間に存在する時、周りの人間に何をもたらすのか?野球選手になるべく運命づけられたある天才の物語。
山田王求はプロ野球仙醍キングスの熱烈ファンの両親のもとで、生まれた時から野球選手になるべく育てられ、とてつもない才能と力が備わった凄い選手になった。王求の生まれる瞬間から、幼児期、少年期、青年期のそれぞれのストーリーが、王求の周囲の者によって語られる。わくわくしつつ、ちょっぴり痛い、とっておきの物語。『本とも』好評連載に大幅加筆を加えた、今最も注目される作家の最新作!!

 

感想

王求は物語全体を通して淡々と野球をやっているのですが、そのほかのことにあまり執着をしない、ちょっと朴訥な感じのキャラの描き方がとてもいい。
一番好きなのが、十三歳のシーン。

友人・乃木が王求に悪いことをしたと思って謝罪の電話をする。
王求は怒っているわけではないが淡々とした回答をする。

「今から風呂にはいるんだ」
「王求、風呂から出た頃にまた電話していいかな」
「困る」
「え」
「風呂から出たら、柔軟体操と腕立て伏せ、腹筋と背筋、握力の強化をやらなくてはいけない。今日は、練習できなかったからな。少し、増やすから」

王求のこの回答に乃木は恐怖・心細さを覚える。
それを察した王求が「怒っていない」ということを伝えたくて発した一言。

「あとは、性器をいじって、寝る」

というのがとてもいい。
(この台詞も前後にちょっとした伏線があるんだけども)

朴訥さがこういう感じで出せるっていいなあと。

あと、二十二歳の最後のシーンもとてもよかった。
良かったんだけど話のメインに入り込んでしまうのでここでは触れないでおく。

昼休みに読んでたんだけど、その景色がすごく美しくて「あ、これ泣いちゃうやつかもしれない」と思ってそっと本を閉じて家で読了した。
最終的に思うところは色々とあったけど、良い話。


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