江戸情話集 (光文社時代小説文庫)

 端正な文章だなあ、というのが第一印象です。
以前にも、岡本綺堂の作品を読んだことがあるとは思うのですが、若かりし頃でしたので、記憶から薄れてしまっていました。もっとちゃんと読んでおけばよかったと、後悔しきりです。
 さて、男女の哀しき恋を描いた五つの作品からなるのがこの本です。
 江戸の侍と祇園の遊女、落ちぶれた地方の大尽と吉原の遊女、蛇つかいの女と年下のヒモ――立場は違えど、全体に流れるのは一貫して悲哀感です。なかには、ずいぶんと勝手な理由から、相手を道連れにする男もいたりするのですが、それにもかかわらず、哀れをもよおすのが不思議です。
 登場人物につかず離れずの絶妙の距離感が、きっと一役買っているのでしょう。
「情話」なんていう言葉からはどうしても、生々しい印象を受けてしまいますが、心配ご無用です。青少年育成に問題のある内容は含まれておりません。男女のひたむきな情愛、書かれているのはそれだけなのです。
 薄ぼんやりとした、そのくせ明瞭な不思議な世界がくせになります。
 この文体で書かれた怪談なら、さぞ雰囲気のある怖いものができあがるのでしょう。
 次は、岡本綺堂の怪談を読むつもりです。