いやあ、痛快痛快。さすが山田風太郎。こんなに馬鹿馬鹿しい話を、こんなに面白く仕上げてしまうとは。
時は室町時代末期、応仁の乱もすでに終わり、戦国大名が台頭してきた時代です。足利将軍家の麗しい姫君・香具耶(かぐや)と引き換えに、南蛮銃三百挺を渡す――香具耶に深い憎しみを抱く、狐使い玉藻の企みに、候補として名乗りをあげるのは、織田信長・武田信玄・上杉謙信・松永弾正の四人。後の秀吉・日吉丸は仕官先を見極めるため、香具耶争奪戦の成り行きを見守ることに。勇猛果敢な姫君に、若かりし日の英雄たちは(悪役松永弾正は早々に退出しています)、振りまわされ、心を乱され、三つ巴はもつれにもつれて、最終決戦へと向かっていきます。
それこそ、へたな作家が書くと、鼻白む作品になりそうなものですが、山田風太郎がやると極上の仕上がりになるのは、手綱の取り具合なのでしょうか。重々しくもなく、かといってふざけ過ぎもしない、節度を持ったはしゃぎっぷりはさすがです。
また、錚々たる武将たちが、三枚目の愛すべき若者に仕上げられていて、香具耶一人に引っ掻き廻されるさまは、微笑ましささえ覚えるほどです。
時代小説でおなじみの、英雄たちが勢ぞろいですので、時代小説に手をつけかねている方は、これを読んで、自分好みの人物を見つけるのもいいかもしれません。これほど可愛らしく書かれた小説はなかなか見つからないとは思いますが……
書かれたのは平成三年とのことで、この色あせない面白さにびっくりです。
**