びっくり館の殺人 (講談社文庫)

 本格推理の名手、綾辻行人の「館シリーズ」です。
 お屋敷町にある、びっくり館と呼ばれる館に住む少年・古屋敷俊生と親しくなった「ぼく」は、俊生の誕生パーティーに呼ばれ、そこで俊生の祖父とリリカとの不気味な腹話術劇を見ることになります。俊生の亡くなった姉と同じ、リリカという名前の人形は、美しい顔立ちをし、口の両端に腹話術仕様の黒い線が入った、等身大の人形です。
 クリスマスパーティーで、ふたたびびっくり館に行った「ぼく」たちは、そこで俊生の祖父が刺されて亡くなっているのを発見します。密室の殺人現場には、ただ、リリカが座っているだけでした。
 だれが、どうやって、なぜ? 事件から十年後の「ぼく」の回想とともに謎は解き明かされていくのです。
 言ってしまえば、叙述トリックです。
ミステリーランドという別のレーベルから、はじめは刊行されたようですが、果たしてこれを「館シリーズ」に加えてよかったものか……
 もちろん、綾辻行人はやはりうまいので、話自体は面白く読めます。
 が、ホラー要素を加えるのならば、「館シリーズ」ではないでしょう、と。せめて、「~囁き」のほうでお願いしたいのです。
 子供を読者に想定しているためか、不気味さを出すために、不要な設定を加えてしまっているような気がします。その設定も言葉足らずのために、説得力に欠けていますし。
 中村青司(館シリーズ共通の建築家です)に、びっくり館を作らせてしまっていいのか? と言いたいです。なんせ、迷路館みたいなとんでもない館を作った人物なんですよ。(叙述トリックにしても、迷路館くらいは欲しかったところです)
 おなじみの、鹿谷(ホームズ役)にしても、ちらっと出てくるだけで、全く活躍の機会はなし。河南(ワトソン役)にいたっては、影も形も見当たりませんでした。
 どうにも拍子抜けです。