庵堂三兄弟の聖職 (角川ホラー文庫)

 新人賞4賞受賞ということで、名前は耳にしたことがあるかもしれません。
 どれだけ面白い小説を書くのかと、文庫になるのを心待ちにしていました。本作は、角川ホラー小説大賞の受賞作。過去に、恒川光太郎「夜市」も受賞している、なかなかにビッグな賞です。

 えー、結論からいいますと、「これが大賞?」という感じです。
 あまりマイナスの感想は書かないでおこうと決めていたのですが、すみません、こればかりは書かせてください。
 主人公は、遺体を加工して、遺族のための工芸品を作成する「遺工」を営む庵堂家の三兄弟。ですが、家業を継いでいるのは長男の正一郎だけで、次男の久就は都内で慣れない仕事に神経をすり減らし、三男の毅巳は改善されたものの、凶暴な気性はそのままのトラブルメーカー。先代の「遺工師」であった父の七回忌に、三兄弟は久しぶりの再会を果たします。ちょうど大きな仕事を引き受けていた正一郎のところに、古い因縁から、極道からの厄介な依頼が舞い込んできます。それをきっかけに、次々と明らかになる、庵堂家の過去。その呪われた過去と向きあい、三兄弟はある決断をするのです。

 というのがあらすじ。
 一読すればお分かりになる通り、ホラー要素はありません。強いて言うならば「遺工」の描写にグロ要素があるくらい。なんなんですかね、設定としては面白いとは思うのですが、設定だけで書いてしまったような印象がぬぐいきれません。
 こまごましたところに、「これいいでしょ?」と言いたげな描写があるのですが、それらがどうも陳腐。暴言を吐いてしまう毅巳が、恋人に渡した翻訳表(ドブやろう=スイートハニーなど、これを恋人の方で訳して聞けというのです)にいたっては、噴飯ものです。
 
 さて、ここからは好みの問題ですが、ルビの多用が私はどうも気になります。
 意識して、計算の上で書いているのならばよいのですが、そうではないような……語彙力の不足を隠すため? と邪知してしまうような、なんだかよくわからないところでの濫用なのです。
 新品→おニュー
 矢印・矛先→ベクトル
 こんなのが延々300ページにわたってあったらさすがにうんざりです。さらには、擬音・擬態語の多用。

 すくなくとも、角川ホラーではないでしょう、と思います。せめて、ライトノベルの方で……とはいえ、電撃大賞の「東京ヴァンパイアファイナンス」も微妙な出来でしたので、強くは言えませんが。