ああ、お待ちしておりました。
デビュー作「夜市」の世界に魅了され、それ以来、ずうっと気になる作家でした。
美しくも物哀しい、独特の世界はまだまだ健在です。
三篇からなる短編集です。
表題作、「秋の牢獄」の主人公は、十一月七日水曜日を何度も繰り返す女子大学生、藍です。ある朝から突然、同じ日を繰り返すようになり、途方に暮れた藍は、とあるきっかけで、自分と同じように十一月七日を繰り返す「リプレイヤー」である隆一と出会います。彼との出会いによって、藍は「リプレイヤー」がほかにもたくさんいるということを知るのです。なぜ、同じ一日を繰り返しているのか。「リプレイヤー」だけを狙う、謎の人物の正体は何者か――結局のところ、謎は謎のまま終わってしまうのですが。
同じ一日をひたすら繰り返すという恐怖を、こんなに幻想的に書ける著者の筆力は素晴らしいの一言です。
長編「雷の季節の終わりに」も読みましたが、著者は短編のほうが向いているのではと思います。つまらなかったわけではありませんが、長編になると、怪異に理由づけをする必要が出てきてしまうのでは、と。
納得できる理由はいりません。不思議で奇妙な余韻、それが著者の魅力であると私は感じているのです。この魅力を最も発揮できるのが、短編かな、と。
角川ホラーから出ていますが、怖くはありません。夜にトイレに行けないという心配もご無用ですので、怖がりの人もぜひ、この哀愁漂う世界に浸ってみてください。