乳と卵(らん) (文春文庫)

 言わずもがなですが、芥川賞受賞で話題になっていた作品です。先日、文庫で販売されていたので、読んでみました。

 一読、ああ、芥川賞だなという感じです。
 中年にさしかかった姉妹と、姉の娘の三人の物語です。姉、巻子は、大阪から豊胸手術のために、娘の緑子を連れて上京。妹であるわたしに豊胸手術の全て、その素晴らしさを語り尽くし、一方、周囲との会話を拒む娘は、日記帳に延々と自分の思いを書き尽くしています。

 テーマを言うなら、「女とは何か?」といったところでしょうか。豊胸手術をはじめ、胸に執着を持つ母親は、まだ女を捨てたくないという思いがあるのでしょう。反対に、娘は日記帳に、生理が来るのが恐い、だとか生れたときからすでに卵子の準備がされているのはおそろしいことだとか、女であることを拒む口ぶりの内容を書いています。
 ストーリーがあるかといえば、とくになく、母子の執拗なまでのこだわりで読ませる作品なのでしょう。

 著者は町田康の影響を受けているそうなのですが、さもありなんといった文体です。私は、町田康が好きなので、とくに気になりませんが、人によっては文章が苦手という人もいるかもしれません。
 最近の現代文学=有閑の若者の自分探し、のイメージが私の中ですっかりできてしまっていましたので、わりあい新鮮に読みました。