最近はまりだした森見登美彦です。また新しいのを読みました。
名作を著者が装い新たに書きなおした短編集です。主人公はおなじみの、ぐうたら大学生たち。どんなものができるのかと思いきや、いやあ、やはりうまいです。
これだけのできのものであれば、今は亡き文豪たちも満足してくれるのではないでしょうか。
新釈した五篇は以下の通り
山月記(中島敦)
藪の中(芥川龍之介)
走れメロス(太宰治)
桜の森の満開の下(坂口安吾)
百物語(森鴎外)
錚々たる名作たちですが、著者は果敢にも新釈に挑戦、成功を収めています。
さらにすごいところは、これら五篇の世界がつながっているのです。ある話で主役を張った人物は、別の話では脇役として、しかも味のある脇役として再登場しています。
著者の世界に持ち込んでいるとはいえ、雰囲気、テーマ、文体は原作のまま。原作→本作のパターンのほかに、本作→原作のパターンでも十分に楽しめるのではないかと思います。
ちなみに、著者の書く、阿呆大学生を思う存分読みたいというなら、走れメロスでしょう。メロスとセリヌンティウスが抱擁する前の、「私を殴れ云々」のシーンの書きかえは、抱腹ものです。
下手なパロディが横行する中、ここまで原作を壊さずに自分の世界を書き切る著者の力量はさすがです。
「太陽の塔」と「夜は短し歩けよ乙女」、正座して読みなおします。