奇妙な論理〈1〉―だまされやすさの研究 (ハヤカワ文庫NF)

 世に蔓延する似非科学を舌鋒鋭く批判する本書。
 著者の槍玉にあげられる、似非科学者の主張のいかがわしいこと。しかし、その結論を導くために苦心した理論は、中には想像力に富むものもあり、なかなか面白いです。

 似非科学なんてものは、どうせ淘汰されてなくなってしまう、と思うのは間違いなのです。というのも、「本物の」科学者にとって、明白なでたらめである似非科学は、反論する価値もなく、無視されます。そのため、似非科学はそこにあり続けるのです。本物か似非かの区別は自分自身でつけなくてはなりません。

 しかし、本書にあふれる似非科学者に比べて、いわゆる科学者の潔いこと。
 ということで、私の感嘆したエピソードを本書から。

 <十九世紀の有名なフランスの数学者ラグランジュは、あるとき、それまで未解決だった問題について自分が考案した証明を説明するために、学会に出席した。彼は自分の論文を読みはじめたが、突然口を閉ざし、顔をしかめた。そして論文を折りたたんでから、こう いった。「みなさん、私はこれについてもっと考えねばなりません」>(P105)
 
 きっと、これができるのが科学者で、できないあるいは考えもしないのが似非科学者なのでしょうね。

 前例のない理論を自信満々で主張する人にはご用心、ということでしょうか。
 訳文のぎこちなさは気になりますが、それでも十分楽しめます。似非科学への免疫付けに一読してみてはいかがでしょうか。