マイナス・ゼロ 広瀬正・小説全集・1 (広瀬正・小説全集) (集英社文庫)

 タイムマシンを題材にしたSF小説です。
 故星新一氏が解説を書いているところから、なんとなく作品の時代が推測されるかと。

 主人公の浜田俊夫は、空襲で亡くなった「先生」から、死の直前に奇妙な伝言を受けるのです。それは、十八年後の同じ日に、この場所に来てほしいということでした。約束通りに「先生」の研究室があった場所にやってきた俊夫が目にしたのは、行方不明になった「先生」の娘、啓子さんだった。十八年の歳月を感じさせない若々しい姿のままの啓子さんは、戦時下の服装・記憶のままでした。啓子さんと話をするうちに、全ての理由が、「先生」の作ったタイムマシンにある、と理解し、自分自身それを使ってみることにするのです。

 古典SFという感じですかね。文体とか、会話文などに時代を感じさせます。始まりがやや冗長な印象なので、とっつきにくいかもしれませんが、いやなかなか。本の裏表紙に「タイムトラベル小説の金字塔」という言葉がありますが、そうかもしれません。
 タイムマシン何かを持ちだすと、その人それぞれの哲学のようなものが浮き彫りになるので面白いですね。
著者の場合は何でしょう。「人生の大枠は決まっている。ただ、大枠の中でなら、変えることができる」あるいは、「人生を変えるのは、些細な積み重ねである」でしょうか。

 俊夫の生きる時間は短く、それだけに、非常に濃厚な人間関係が築かれているのです。始まりの冗長な部分も、伏線だと思って読みましょう。
 オチは若干混乱しますので、勢いよく読んでしまわないよう注意です。