考えてみたら、第15回(2008年)の角川ホラー小説大賞の受賞作を全部読んでいました。
ちなみに、
大賞 真藤順丈「庵堂三兄弟の聖職」
長編賞 飴村行「粘膜人間」
短編賞 田辺青蛙「生き屏風」
短編賞 雀野日名子「トンコ」(まだ感想は書いていません) です。
全体を通しての感想は、「角川ホラーは大丈夫なのか?」です。残念ながら。
本作、生き屏風は、県境で好くないモノから里を守るという役目を担う、小さな妖鬼・皐月が主人公です。
ある日、皐月のもとに奇妙な依頼が来るところから始まります。
その依頼とは、死後、屏風に宿った酒屋の奥方の話し相手をしてほしいという内容です。奥方はわがままで、家のものは手を焼いていますが、皐月は話をしているうちに次第に打ち解けて――
辛口でいきます。
主人公である皐月のキャラクターがよくわかりません。
冒頭の一文、「皐月はいつも馬の首の中で眠っている。」
これは悪くないとは思いますが、いかんせん、あとがつづかない。たぶん、著者は皐月を可愛らしいキャラクターにしようとしたのでしょうが、中途半端。会話文も、説明口調が気になって、不自然きわまりないです。
さらに、話の盛り上がりに欠けます。何をするかといえば、屏風の奥方に自分の思い出話をするだけ。そもそも思い入れのないキャラクターの昔話なんて、興味が持てません。ましてや、言及すらされていない皐月の父親の昔話に至っては。
里の守り神的な位置づけの皐月だけに、里に悪霊のようなものがやってきてひと騒動、かと思いきやそれもなく、ただひたすらに会話文。
最後に、オノマトペが多すぎます。
バンッ。トンッ。ポンッ! どろんっ。
それを読んで、どうしろと? どんな状況を想像しろと? オノマトペの多用は、語彙力不足をアピールしているように思えて仕方がないのです。たまにならばいいのですが、1ページに5つも6つも使われては、さすがにうんざりです。
その他二篇、皐月を主人公とする短編が収録されていますが、どれも似たり寄ったりで、昔話に終始する盛り上がりに欠ける展開なのです。
大きな長編あるいはシリーズを書いた後の、おまけ的な内容でしょう、これは。