蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)

 好きな女性の布団の香りを嗅ぐ中年男性の話、というレベルの基礎知識しか持ち合わせていないままに読みました。結果、変態の話なんだろうな、と先入観を抱くのは致し方ないこととご容赦願います。
 ですが、実際に読んでびっくり、ごくごく普通の純愛物語でした。

 主人公は、雑文を書いて暮らす竹中時雄という三十半ばの男。結婚もしており、子供も三人目をもうけたばかりです。本業である小説は、美しい文体を特徴としており、その文体ゆえに、熱心なファンも多い。
 そんな中、彼のもとへ一通の手紙が届きます。岡山に住む、横山芳子というその女性は、女学生の身でありながら、将来文章で身を立てたいという希望を抱いており、そのために彼の指導を仰ぎたいというのです。
 美少女、芳子が弟子として彼のもとへ来たときから、彼の煩悶は始まります。彼は芳子に恋心を抱きます。とはいえ、彼と芳子は師弟関係。第一、彼には妻子がいるのです。彼の心を知ってか知らずか、ハイカラな女性である芳子は、男友達としばしば遊びに行ってしまいます。
 さらに、恋仲になった学生と駆け落ち同然の行為まで――

 芳子にこんな感情をもつのはいけないことだ、と思いながらもどうしようもできない彼の苦しみ。彼の思いに肯かれる人もいるのではないでしょうか。
 文章も意外に読みやすいです。

 ただ、私個人としては、もう一つの「重左衛門の最後」のほうが面白かったです。