ジュリエット (角川ホラー文庫)

 なんだかんだ言いながらも、また読んでしまいました、角川ホラー。
 結局のところ、私はホラーが好きなのかもしれません。良質のホラーに限る、ですが。

 さて、本作です。
 妻を亡くし、夜勤続きの仕事をやめて、娘と息子との距離を埋めるために、南の島でゴルフ場の管理人という仕事を見つけた小泉健次。息子のために、水字貝という貝を貝殻にしようとしたときに、ある老人に出会います。老人は「魂抜け」という、貝から中身を抜きだす方法を教えてくれますが、一つ、貝から中身が落ちるところを見てはいけない、という忠告をします。もしも、見てしまったら、貝の魂に取りつかれて、暗い思い出に喰われてしまうというのです。
 この展開上、小泉一家は「魂抜け」の現場を見ないはずがありません。とある偶然から、目撃してしまった一家の周囲には、奇妙なことが起こりはじめるのです――

 思い出が文字通り甦るという設定は、悪くないとは思います。それで、悲愴感のある話に仕立てれば、個人的に好きなタイプの話になるのですが……

 とにかくなぜ? というくらいに、B級ホラーの香りが漂ってくるのです。展開にしても描写にしても。家族がある程度のトラウマを持っていなければ話が成り立たないというのはもちろん分かります。ですが、そこまで重い、というよりも悪趣味なトラウマである必要はないのでは。
 怖さを盛りたてようとして使った小道具が、ことごとく裏目に出てしまった感があります。

 必ずしも「怖い=気持ち悪い」ではないと、私は信じています。