タイトルからして、かなりのインパクトをもつ本作。単行本が出たばかりのころから、読んでみたいなあ、とは思ってはいたものの、小説は文庫で、という主義の私はしばし放置をしていました。
それがようやくつい先日、文庫の新刊コーナーに並んでいたのを発見し、購入。
早速読んでみたところ、当初抱いていた印象とは異なるものの、面白い作品でした。
連作短編といえるでしょうか。小学校のクラス会の三次会で、五人の男女がまだ来ぬ同級生、田村を待っているます。場所はすすきのにある、小さなバー。店長は、脱サラをして店を開いたばかりの中年男です。
「田村はまだか」と、連呼しながら、待ち続ける彼らの頭をよぎるのは、田村の思い出と、おのおのの記憶。夜は更けていく。
田村はいつになったらやってくるのか。
私は勝手に、田村というのは三枚目のキャラクターなのだと思い込んでいました。なかなか現れず、好き勝手いわれる田村、というのが主軸なのかなあ、と。
私のこの想像と違って、田村は非常に好人物。幼いころから苦労人で、小学生の同級生(つまり田村を待つ五人の同級生)と結婚し、順調な人生を送っています。五人の思い出、そしてバーの店長である花輪の思い出が、田村の記憶と絡むことによって、浄化されていく、そんな印象があります。
しかし著者は、台詞だとか、細かな仕草だとかの使い方がうまいですね。
不必要な台詞に見えて、全体を引き締めたり、小さな描写が一気に現実感を引きたてたり。
中年男女のあれやこれといった、あまり私の読まないジャンルの本でしたが、読みやすく後味さっぱり。楽しませていただきました。