美女と竹林 (光文社文庫)

 最近すっかりファンになってしまいました。
 さて本作、小説ではなく、妄想混じり(大半?)のエッセイということで、果たしてどのようなものか、危惧を覚えながら読んでみました。いやあ、面白い。馬鹿馬鹿しくて面白い。

 目下、小説の締め切りに追われて現実逃避中の登美彦氏は、将来の安泰のために多角的経営を思いつきます。では、何をビジネスとすればよいか。そこで思いついたのは、竹林の経営。実は登美彦氏は、竹林に幼少のころより心惹かれていたのです。
 手始めに、とばかりに登美彦氏は職場の同僚である鍵屋さんの所有する竹林の手入れを行なうことにしたのです。友人で弁護士の卵である明石氏とともに、のこぎりを手に荒れ果てた竹林に分け入る登美彦氏。繁茂した竹林は、彼らの少ない体力を容赦なく削り、繁殖した蚊は、彼らのモチベーションを奪い去ります。
 時に仕事に邪魔をされ、時に援軍を投入し、登美彦氏と竹林との戦いは続きます。苦闘を繰り広げる登美彦氏の脳裏に浮かぶのは、MBC(モリミ・バンブー・カンパニー)の経営者となり、TIME誌の表紙を飾る自分の姿。
 がんばれ登美彦氏、竹林の未来のために。

 半ばエッセイですので、あらすじを説明するのはなかなか難しいのですが、以上のような内容がメインでしょうか。なんだかよくわからない話です。正直、読み終わってからもよくわかりません。
 ですが、それは重要ではないのです。
 大切なのは細部です。豊富なボキャブラリーを駆使して考え抜かれた、ひとつひとつの単語・表現。個性的な登場人物たち。そして、繰り返しの妙。微妙に変化を加えつつも繰り返される台詞、表現には思わずにやりとしてしまいます。

 竹林の手入れをしようとして、結局うまくいかなかった。それだけの話をここまで膨らませて、面白可笑しく書ける著者の筆力には感心の一言です。

 もしも、森見登美彦=文学という図式を持っている人がいたら、早急に訂正を。