左手に告げるなかれ (講談社文庫)

 江戸川乱歩賞受賞作、という煽りにつられて買ってしまいました。ビッグタイトルなので、だいぶ期待を込めて読んだのですが、どうもいまいちでした。

 主人公はスーパーで万引きの捕捉を行なう保安士である八木薔子(しょうこ)。彼女は過去の不倫が元で、大手証券会社に勤めるエリートとしての地位も貯金も家も失っていたのです。そんな薔子の前にある日、二人の刑事が現れ、かつての不倫相手であった木島浩平の妻、祐美子が殺されたと告げます。
「右手を見せてもらえませんか」最後に刑事が言った台詞。そこには、薔子を容疑者として見なしているという意味が込められていました。木島祐美子は、ダイイングメッセージとして「みぎ手」と血文字で書き記していたのです。
 このままでは、なし崩し的に犯人にされてしまう。薔子はかつての不倫相手であり、被害者の夫である木島浩平とともに、事件の調査に乗り出します。浮かび上がる巨大小売チェーンとの関係。真犯人は、そして「みぎ手」の意味とは?

 ええと、これはいったい何のジャンルに含めればよいのでしょう。
 江戸川乱歩賞ならば、推理あるいはミステリかと思うのですが、推理にしては真犯人とダイイングメッセージの謎ときがお粗末すぎますし、ミステリにしては事件の全体像とのつながりが希薄(というよりも、巨大小売チェーンを出す意味が分からない)です。
 と、ここまで書いて、「傑作長編サスペンス」と帯に書いてあるのに気づきました。なるほど、確かに2時間サスペンスなんかでありそうな内容です。
 美人で頭がよくて度胸もある女性と、昔の男、そして崩れた雰囲気を持つ謎のイケメン。被害者の評判やらご近所とのトラブルやら下世話な印象を受けたのは、そのせいだったんですね。
 
 今回、私が好みでないと思ったのは、サスペンスというジャンル全体についてなのかもしれません。不遇な才媛と魅力的な男性二人との三角関係、という図式を主題として見れば、面白いと思う人は結構いるかもしれません。