主題は恋愛、でしょうか。それも、通常は認知されない、踏み外した方向への。踏み外した人たちが、悲劇になるか、それとも幸せをつかむかは、運次第、あるいは考え方次第。五篇の短編集です。
面白いか面白くないかで言えば、面白いです。
ただ、どうしてこれを朱川湊人が? という疑問が湧くのも事実です。さすがに文章は巧みなのですが、なんとなくありがちなお話の集まりなのです。
そんな中、私が一番良かったのは、最後の「いつか、静かの海に」。
幼い主人公が、月から来たという美しい“お姫さま”と、それを育てる曾根という男に会うところから話は始まります。“お姫さま”を育てるためには、ある特殊な食事が必要なのですが、そのためには、特別な材料からできた、特別な道具が必要なのです。主人公はある日、曾根から道具の作り方を教えてもらうのですが――
何がいいって、終わり方がいいです。下手な作家なら、一線を越えさせてしまいそうなのに、主人公に踏みとどまらせた。主人公が後悔しながらも、それでも踏み出せない自分に自嘲する、そのラストはなかなか美しくもあります。
短編集ではありますが、「朱川湊人」を楽しむのなら、最初の「死体写真師」と「いつか、静かの海に」だけを読めばよいのでは。
しかし、朱川湊人はラストがうまいですね。ラストシーンをどれだけきれいにもっていくか、そこに重心をおいているようです。
端正な文章で、美しいラストシーン。これが著者の魅力だと私は勝手に考えていますので、私のお勧めは上記、二作品です。以上。