有頂天家族に引き続き、森見登美彦、読みました。
いや、うまいですね。面白かった。
主人公は冴えない大学三回生。「薔薇色のキャンパスライフ」を期待して、入学式を迎えたのも遠い昔。今は、四畳半のぼろアパートで鬱々とした生活を送っています。友達といえば、他人の不幸が大好きな悪魔的性格、かつ妖怪的風貌を持つ、小津ただ一人。一回生のときに、もしもほかの部に入部していたら、と無益な想像をしながらも、小津に振り回されるつづける主人公――
四つの話からなる、連作短編の形をとっています。
その一つ一つの話も面白いのですが、なんとこれらはパラレルワールド。四つの話は、全て同じ事件を描いているのです。ただし、主人公の立ち位置によって、微妙に物語に違いが出ます。一度読みとおして、再度読み返してみるとまた、新鮮な発見がありそうです。
何より、主人公の友人である悪人、小津のキャラクターが秀逸。根回し、裏工作が得意で、うまく立ち回るが、肝心なところで抜けている。“師匠”に対しては、献身的で、主人公の窮地にも力を貸してくれる。その上、ちゃっかり可愛い彼女まで作っているという、まったく正体不明の人物なのです。近くにいたら、絶対憎らしいはずなのに、文字を通すと憎めなくなっているのが、巧みなところですね。
さてさて、私がこれまで森見登美彦にどうにも苦手意識を持っていたわけ、その片鱗が少しだけ見えました。
それは、お得意の「黒髪の乙女」のキャラクター造形にあるようです。
本作では、明石さんという乙女が登場しますが、これがどうもいまいちなのです。理知的な顔立ちで頭もよく、歯に衣着せぬ物言いで、周りから認められつつも倦厭されているという彼女は、くまのぬいぐるみを大事にしています。
これがくせものです。
明石さんは、ぬいぐるみの類まれな柔らかさにちなんで、それを「もちぐま」と名づけ、五つ揃えて、「ふわふわ戦隊モチグマン」と称し、大切にしていたのだそうです。
どうにもしゃらくさい感じがしてしまうのは、私だけなのでしょうか。