ああもったいない、と思ってしまうのは、私の勝手な思いなのでしょうか。
天才建築家、十文字和臣の建てた、六角形をした銀色に輝く別荘で、和臣自身が死亡した。螺旋階段の踊り場で発見された彼の死因は、転落死ではなく、墜落死。しかし、死亡現場も、何者が死体を踊り場まで移動したのかも不明なまま、半年後、六角形の別荘で、さらなる連続殺人事件が。別荘に秘められた謎の解明とともに、全てが明らかになっていく――というストーリーです。ここからも明らかですが、著者はかなり綾辻行人を意識しています(作中にも、「十角館の殺人」に言及しています)。オマージュともいえそうです。なので、当然、私は「十角館~」の雰囲気を想定して読み始めました。
しかし、十ページも進まないうちに、違和感が。
あらすじをよく見ると、コミカルな筆致という言葉がありました。なるほど、ユーモア本格推理ということですか。とはいえ、これはいただけません。コミカル、それは確かにそのとおりなのですが、ちょっと違う。一言で言えば、ライトノベル的なノリが散見されるのです。
たとえば、ジャガー(車)の屋根に、三段跳びで駆けあがり、「交通ルールを守りましょう」と叫ぶ美人女探偵。事件解決そっちのけ、下心満載の若手刑事。全寮制の女子高を卒業したばかりの、天然ボケの美少女。どうでしょう、ありそうじゃないですか? さらには擬音の多用や、どーだっていいのだあああッ! という書き文字。ユーモアミステリというのは、こんなのでしたっけ?
いや、トリックは面白いんです。時刻表トリックだとか、アリバイ崩しとかよりも、これくらいどでかい仕掛けのほうが私は好きです。それだけに、このテンションに冷めてしまうのが残念で仕様がないのです。もう少し抑え気味のテンションにするか、いっそのことライトノベルのレーベルで出してしまうほうが、よかったのではないでしょうか。
最後にひとつ。全寮制の女子高卒で未成年のお嬢様が普通に飲酒していますが、それは事件ともトリックとも何の関係もありませんので、あしからず(私は勘ぐってしまいましたが……)。
館島 (創元推理文庫)|東川篤哉
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