スメラギの国 (文春文庫)

 へえ、こんな雰囲気のも書くんだ、というのが一読した感想です。
 直木賞を受賞した「花まんま」でも分かるように、著者はノスタルジックなホラーを得手としています。こちらは一転、現代もののホラーサスペンスです。

 タイトルにある「スメラギ」というのは、登場人物の一人、香坂志郎が近所の空き地に住む美しい白猫につけた名前です。カリスマ性のある「スメラギ」とそれを取り巻く猫たちの社会と、人間たちとの関わりを描いています。主軸は愛。親子愛、恋人同士の愛、主人と飼い猫の愛。それぞれの愛をかけて、人間と猫はそれぞれの敵と戦うのです。
 猫を敵に回してしまった、香坂志郎がメインになっていますが、子どもを交通事故で亡くし、加害者に復讐心を抱く父親と猫との交流など、ほろりとする場面もあり、朱川湊人らしいところも散見できます。

 作家デビュー前の作品のようですので、まだまだ甘っちょろいところはあるものの、話自体の完成度は高いかと思います。
 残念ながら私はノスタルジックな朱川湊人から知って、ノスタルジックな朱川湊人が好きですので、本作品はうーん、というところなのですが……