この人の小説が好きなんだな、とこれを読んで実感しました。
お得意のどんでん返しが光る、表題作「熱帯夜」も面白いですが、収録されている短編「あげくの果て」が私のツボです。
というわけで、「あげくの果て」について。
舞台は近未来。
高齢者過多による福祉費のため、困窮にあえぐ日本。その打開策として取り入れられたのは、高齢者を対象とした徴兵制度でした。荒廃した社会では、「ギン」と呼ばれる敬老主義組織と、「アオ」と呼ばれる排老主義青年組が対立しています。
徴兵のための検査を受ける大介。
金のために「ギン」の仲間を売る光一。
死体拾いのアルバイトをしながら、サッカーの名門高校へ行くことを夢見る虎之助。
望みの持てない世界の中で、必死に生きていく彼らを待っているのは、所詮、悲劇的な結末しかないのです。
――が、何なんでしょう。この馬鹿馬鹿しさは。
「ギン」「アオ」という組織もそうですし、おん歳九十八歳の生ける軍神にしても、至って真面目なのがまた面白い。
これは痛烈な皮肉なのでしょう。
徹底的なまでに追求した大袈裟な馬鹿馬鹿しさと、それとは裏腹に絶望に流されていく登場人物たち。このアンバランスさがあってこそ、引き立つ話です。
もちろん、筆力も欠かせない要素です。
まだまだ新人と言ってもよいくらいのキャリアなのに、これはすごいです。次作を楽しみにしています。