果つる底なき (講談社文庫)

 今さら感はありますが、98年江戸川乱歩賞受賞作です。
 主人公、伊木は大手銀行の融資担当。もともとは本社の企画部にいましたが、一匹狼的な性格が災いして、支店へ飛ばされたという過去を持っています。今も、派閥争いには関わらず、孤高を貫いています。
 ある日、伊木の同僚であり、債権回収担当である坂本が車の中で死んでいるのが発見されます。車内には蜂の屍骸……死因は、蜂によるいわゆるアナフィラシキー・ショック。死後、坂本による三千万円もの使い込みが明らかになります。
 坂本の残した、「これは貸しだからな」という謎めいた言葉の意味を求めて、そして、友人の汚名を晴らすため、伊木は調査を始めるのでした――

 ということで、坂本の死の背後にある影が明らかになっていきます。
 話の盛り上げ方もうまいですし、銀行というお堅いテーマですが非常に読みやすい。
 ですが、若干小粒な印象です。受賞の理由に、銀行小説が珍しいというのもあるのでしょうね。その辺りは興味深く読んだのですが、ちょっと大風呂敷を広げ過ぎたのではないかと。
 事件の黒幕に、巨大な影が……といった煽り方をしているのにもかかわらず、意外にしょぼい真犯人とその動機。そして、最後に警察が主人公に事件の真相を説明するという二時間ドラマ的な展開。
 
 これは私の読み方が間違っていたのですかね。解説にある「銀行ハードボイルド」の言葉のように、ただ伊木の格好よさにしびれるべきなのかもしれません。